雪がチラチラ舞う関西空港。そこへオレ様は、アロハシャツのような薄っぺらいシャツだけが20枚入ったアボリジニの女性画家・グロリアのスーツケースをガラガラ引きながら到着。なんたって、シャツしか入ってないんだから、軽い軽いこのケース。分厚いコートを早く見つけなくちゃね。

同行したバーバラ姫は、これで3度目の来日(でも大阪は初めて)。余裕を見せていきなり自動販売機で温かい缶コーヒーを買いに行く。どうやら前回の日本滞在中、あのうまさにはまったらしい。

当初は『日本ヘは行きたくない』と言い張ってオレ様を随分困らせたバーバラだったが、いざ到着をしてみると、どうやらまんざらでもないようだ。

しかし、ケアンズ空港で国際線のチェックインをした時に、実は大変なる事件が起こったのである。

ご存知のとおり、バーバラのパスポートには生年月日が記載されていない。○○日、○○月、1945年とだけ書かれている。

まあ、これはブッシュの中で生まれたアボリジニの人達には決して珍しくないことなのだが、その時のチェックイン担当のおねーちゃんがどうやら新人さんだったようで「生年月日がちゃんと書かれていないと、コンピューターに入力ができません。つまり搭乗券が発行できないんです」と主張するではないか。

すると、バーバラ姫。間髪を入れずに「あんた、私を誰だと思ってんの。有名なアボリジニアーティストなんだよ。私はこのパスポートで世界中、どこにでも行ってんだよ。パリ・ロンドン・ニューヨークにね。

この間なんて、イギリスのチャールズ皇太子からディナーの招待状だってもらってんだ(あ、これホントの話ね)。その私がチェックインできないとは何事だ!」とそれはそれは大きな声で、そのおねーちゃんをやっつけるではないか。

さすがのオレ様もたじろいだが、いやはや、とにかくチェックインしてもらわないことには日本へ行けないわけであるから「なんとかしてよね」と怪しく笑って、おねーちゃんに懇願するばかりだった。

結局、奥からスーパーバイザーのオエライさんとイミグレーションの担当者までがカウンターにやってきて、やんややんやの1時間。おかげさまで無事に搭乗券はもらったものの、バーバラ姫のご機嫌が一気に悪くなったことは言うまでもない。

「だからあたしゃ、日本へは行きたくないって言ったんだよ。こんなトラブル、もうごめんだね」とヘソを曲げるお姫様。

アロハシャツ嬢のグロリアは、もうそんなこと、自分には関係ないという顔をしながら、オレ様に口をパクパクする様子を見せて「腹減った。何か食わせろ」とただそれだけ。

言っておきますが、これはまだ初日の話。それゆえ、この先、一体何が待ち受けているものか、オレ様は日本行きの機内で、あれこれとシュミレーションを試みたほど。

まあ、しょっぱなからそんなハプニングがあったはものの、日本到着後のバーバラ姫はいたってご機嫌のようなので、ひとまず安心。

オレ様、これまで何度もアボリジニの人達を日本へ連れてお世話した、という変な自信があったが、それが今回の日本滞在で見事に音を立てて崩れたことは言うまでもない。

バーバラ姫はともかく、アロハシャツ嬢のグロリアは、かなりのトラディッショナルなアボリジニの女性だということを、オレ様もう少し学習しておくべきだったと深く反省をしたものだ。

一番困ったのがやはり食事。何を食べさせても駄目。駄目。雪が舞う中、オレ様は何度コンビニまでダッシュして、あれこれと彼女が好きそうな食材を調達したことだろうか。

それでも駄目、駄目だった。挙げ句の果てには真夜中、腹が痛いとトイレへ駆け込んだグロリア嬢。ここからはもう誌面では申せません。

オレ様、その夜は一晩中、便所掃除に明け暮れたことは言うまでもない。自分のう○こも結構臭いとは思っていたが、他人様のう○こがこんなにも強烈だったことを初めて学んだ。アボリジニの人達との共同生活は学習することがたくさんだ。

結局食事は、部屋で調理して食べることにした。スーパーでオージービーフを目にした時の彼女達の満面なる笑みが、オレ様今でも忘れられない。

それでも一日、一日過ぎるごとに、グロリアもバーバラも次第に慣れてきた様子がうかがえ、オレ様もほっとする。なにしろ2人は、今回のエミリー展開会式に、わざわざオーストラリアのど真ん中から招かれた特別ゲストなんだからね。

始終ハッピーであってもらいたいと願うオレ様は、もうこの1週間は彼女達の奴隷に徹しようではないかと心に決めた。観光からショッピングから、彼女達が望むことはすべて「ほほほ~い」と2つ返事で叶えてやった。

しかし、値札も見ずに、ほしいものをじゃんじゃかこれでもかと、勝手にレジに持っていくバーバラ姫。レジの人に「合計27万8000円です」と言われたが、もちろんそんな大金持っているわけはないし、それを通訳するのは、このオレ様の役目。

その金額が豪ドルでいくらなのかをバーバラに告げると、彼女は「やっぱ、いらない」と早々に店を出て行く。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ほんとにごめんなさい」と頭を下げてオレ様も逃げるように店を出る。それを横で見ながらグロリア嬢は「腹減った。何か食わせろ」と、これまた口をパクパク。

ああ。今日はほんとに、まだ2日目なのだろうか。このままじゃ、オレ様、血管ぶち切れて明日の朝、目が覚めないかもしれない。そんなことを心配しながら、すぐに携帯で京都在住の友人にSOSを入れたのであった。

まだまだ続く女王様達の大阪珍道中。次号をぜひともお楽しみに。