マイカントリー

間もなく年齢80歳を迎える女性作家。力強い筆さばきの中にもどこか温かみを感じる作品である。

絵画制作を始めるまでは、居住区では高齢者施設で単調な生活を送るだけの毎日だった作者だったが「アート」を描き始めるようになってからはまるで別人のように生き生きと暮らすようになったと関係者たちがみな驚いている。

アボリジニの人々にとって「絵を描く」というのは美術を制作することではなく自分たちの文化を次の世代に確実に継承するというもので、そのプロセスが何よりも大切なのである。文字文化を持たなかった彼らの社会において絵は芸術ではなく「視覚言語」だったのだ。つまり、私たちが普段慣れ親しんでいる西洋美術とは対極的な絵画と言えるだろう。

最寄りの街まで900キロ。キャンバスやアクリル絵の具を街から調達するのにも一苦労である小さな居住区だが、いまやここで生まれるアートが世界各国から注目され始め、アートセンターは始終大忙しだという。

絵を描くことが自分自身のアボリジニとしてのアイデンティティを再確認できる喜びだと誇らしげに語る作者に今後の更なる活躍を期待したい。