オーストラリア大陸の先住民アボリジニは、5万年以上にわたりこの大地と自然を守り続けてきた人々です。現代的な生活を送る一方で、古くからの伝統を歌や踊り、そして絵画という形で次世代に伝えています。
彼らは遥か昔、現代人が使うような道具や地図を持たずに、オーストラリアの広大な大地を自由に行き来していました。その生活は狩猟採集を基本とし、必要に応じて水や食料を見つける卓越した能力を持っていました。このように自然と共存してきたライフスタイルは、私たちの常識を遥かに超えたものです。
アボリジニには文字がありませんでした。そのため、絵を描くことが最も重要なコミュニケーション手段でした。砂漠という厳しい環境で生き抜くための知恵や情報、掟などを“絵”で伝える文化が根付いていたのです。
私たち現代人は西洋的な価値観で物事を考えがちですが、アボリジニは全く異なる独自の世界観を持っています。それを表現したものが「アボリジナルアート」と呼ばれる芸術です。
アボリジナルアートは、大まかに次の4つのスタイルに分類されています。
- アーネムランド(北部): 樹皮画
- 中央砂漠・西砂漠地帯: アクリル画
- 北部準州その他: 工芸品
- 都市部(南東部): 現代美術
アボリジニはもともと600以上の言語集団に分かれ、それぞれが異なる文化を持っていました。このため、アボリジナルアートにも非常に多様な種類があります。
私が専門とするのは、中央砂漠地域のアクリル画です。この地域で描かれる「ドットペインティング」と呼ばれる点描画法は、非常に細かい点の集積で構成され、独特の美しさがあります。
元々、砂漠に住むアボリジニは、大地の上に天然の粘土を使って砂絵を描いたり、体にボディペイントを施したりして、重要な情報を記録していました。しかし1971年、イギリス人美術教師ジェフリー・バーデンの指導により、パパニア地方(アリススプリングスの北西約270キロ)で初めて現代的な素材を使った絵画が生まれました。現在では、キャンバスとアクリル絵の具を使った点描画が主流となっています。
一見すると、ドットや記号が並んだ抽象的なデザインに見えるかもしれません。しかし、アボリジニにとってこれらの絵は、文字に代わる具体的なストーリーや地図、情報そのものなのです。
色彩の自由さや独創的なスタイルを持つドットペインティングは、現代風の伝統芸術としてオーストラリア国内外で注目を集めています。
アボリジナルアートはまさに大地と一体化したアートです。“ドリーミング”と呼ばれる天地創造の神話や伝説が描かれたこれらの作品は、何万年にもわたり神聖な儀式の中で次の世代に受け継がれてきました。これからもアボリジニの文化とともに守られていくでしょう。