マイ・カントリー My Country

ルーシー・ヌンガライ

作品の中央部分に描かれている同心円は、アボリジナルの女性たちの伝統的な儀礼が行われるキャンプ地《集合場所》を表し、そこは遥か太古に大地の精霊たちが水場を探し求めながら旅をした旅程でもあったという。アボリジナルの女性の儀礼には水の乏しい砂漠で生き延びるための大切な情報を自分達の次の世代へ確実に伝承するという大きな意義がある。

これは水一滴ない砂漠の過酷な自然条件の中で“生きる”ために欠かせない知恵と情報であり、その伝達のために行う儀礼には必ず自分たちの身体(肩・胸元・乳房部分)に“ボディ・ペイント”を描き、それには部族の歌・踊りを伴いながら、アボリジナルの女性たちは幼い頃から大事な伝達の記録として歌を耳で、また踊りを視覚的に記憶する。

もともと「読む」「書く」といった文字を持たない無文字社会で生きるアボリジナルの人々にとって、絵を描くということは決して芸術のためではなく、ビジュアルな言語として(視覚で記憶する文字に代わる記号のようなもの)これまで何千世代にも渡って伝承されてきた文化・歴史・ライフストーリーそして命を繋ぐ物語そのものなのである。