アボリジニ村珍道滞在記 後編
さて、今月は「アボリジニ村珍道滞在記4日間」の後編であるが実はまず何からいったい書こうかとあれこれ頭を悩ますほどイベントが盛りだくさんの毎日であった。ここではそのほんの一部しかご紹介できないのが誠に残念である。
ご存知の通り、このオーストラリア大陸の最初の住人であったアボリジニはおよそ5万年前から人類の最も基本的なライフスタイルである狩猟採集のみで、それはそれは長い間自然とのハーモニーを大切にしてきた人々である。・・・が、今もってスッポンポンで裸足で狩りだけをしているアボリジニなんてどこにもいないし、彼らは居住区内のスーパーマーケットで缶詰や冷凍肉・野菜を買い我々と変わらぬ生活を営んでいる。(彼らの好物、カンガルーのしっぽも一本$7で購入可)ただ、その”生活”という概念が我々と若干違うだけのことである。そんな現代(いま)を生きるオーストラリア・アボリジニ達とのふれあいを私は今回のこの旅の同行者であるS子・TOM・A里たちと共有したかった。
まずアボリジニ居住区に入るにあたっては許可証の申請が必要である。観光客がむやみやたらとそこへ入り込まないように訪問者の身分をハッキリさせておく必要があるのだ。そして滞在の目的も同時に明らかにしておかなければならない。ひと目ですぐバレるようなウソではあったが、今回は「アボリジナルアート市場視察」ということでS子は不良美術教師・TOMは悪徳アートディーラー・A里は貧乏美術大学生ということにして見事アボリジニ村訪問を実現させた。インチキだらけの旅がこれまた面白い。
到着初日、早々に”ハニーアント(蜜アリ)”狩りへ出発した。我々4人が来ることを見込んでアボリジニの友人ナプラーはすでに何人かの仲間たちにも声を掛けてくれていたらしく、狩猟道具(道具といっても鉄の土堀棒と特大の空き缶であるが)も用意されていた。現在食料の80%以上をもはやスーパーマーケットに頼っている彼らではあるが、いまだにこうして伝統的な生活スタイルを残す動きがあることは非常にうれしいことだ。
さあ、いよいよ蜜アリ狩りに出発だ。我々のレンタカーである三菱パジェロは確か5人乗りのはずであったが恐らく9人は乗り込んでいたであろう。「うっへー。マジ~?これみんな乗せてくの・・・?荷台にも人が乗ってんだけど大丈夫?」といきなり不安気な様子を見せるTOM。「今更なに言ってんのよー。キミ、運転手だよ。はい、さっさと出発する!」と冷静に指示するS子。二人のやり取りを見て「あはははははっは・・・・」と笑い続けるA里。私自身も久しぶりの蜜アリ狩りに胸を小躍りさせながら目的地を彼女達に聞くが、皆ある一定方向を指差しながら「THAT WAY」と口を揃えてそう答える。もちろんそこは砂漠のど真ん中。標識なんてどこにもないし道しるべは唯一彼女達の持つ情報のみ。文字文化を持たなかったアボリジニ達は情報のすべてを目で耳で鼻で身体全体で記憶する。お見事だ。制限速度もあるわけのない砂漠での運転でTOMはスピードの出しすぎだとアボリジニの女性たちに注意された。「ええー、だってここ一本道だよ。一本道。対向車もないでしょうに。」とやけに口ごたえをするTOM。しかしここは砂漠なんだ、TOM。ここでは彼らがボスなんだ。黙ってキミは運転しててくれ。私は心の中でそうつぶやいた。
いったい何をどんな目印にしているのか私にはさっぱり分からないのだが「ここで止めろ」というナプラーの合図のもと車を降りるやいなや皆一斉におのおのの思う場所めがけて散らばった。我々4人も置いていかれちゃあたまらない・・とそれぞれに必死について行く。砂漠の日中はとても気温が高い。みるみる汗がT -シャツに染みて行くのを感じた。そんな暑さの中でもアボリジニの女性たちは「ここだ!」と思った地面にどんどん穴を掘り始め一時間もしないうちに瞬く間に胸まですっぽり入るような、深さ1メートルはあるであろう穴をみなほとんど同時に完成させた。「あ、いたいた。アリだアリだ。まん丸だ。すごい大きい!」と興奮するS子の側で「わたし、食べたい」といきなりアリを口に入れる度胸者A里。「うんめー。これイケるよ、絶対!でもさぁ。これ一見みるといくらの醤油付けみたいだぜ。」と訳分からぬ事を言いながら絶賛するTOMはひとりで密かに10匹以上は食べていたのを皆知っていた。
「このアリは糖尿病に良く効くの。糖分を取りすぎるアボリジニ達の良い薬でもあるのよ。」と言いながら美味しそうに次々に蜜アリを口に入れていた女性は見事に丸々太っていた。そんな光景を見ながらこの砂漠のど真ん中で今日初めて出逢ったアボリジニの女性たちと日本人のS子・TOM・A里たちがこんなにも親しく自然体で蜜アリ狩りを一緒にしていることが不思議にさえ感じられた。
人と人のつながりって本当に素晴らしい。普段、何かと忙しくしていることが「充実している証拠」だと思いがちな私自身の生活を大いに反省した。何万年も変わらぬこの大地のようにもっとリラックスして、スローダウンしてこそより本当の豊かさを得られるのではないだろうか。
蜜アリ狩りに引き続き、手のひら大の大きなイモムシ狩り,アボリジニ村小学校訪問、トラック荷台乗車での超長距離ドライブ、アボリジニたちとの儀礼ダンス、絵画買い付け、ため息つくほど美しい砂漠の朝日・・・そして何よりも優しいアボリジニたちとのふれあいなど、とても4日間とは思えぬ”魔法の時間”。
念のためにお知らせをしておくが、私も【自称・インチキコーディネーター】これまでに何人もの友人・知人をアボリジニ居住区へ連れて行く機会があったが、今回ほど”自分”が楽しめた訪問はなかった。なんといっても今回の同行者であるS子・TOM・A里は”自分たちがより楽しむ方法”を私以上に認識していたのである。したがって私は彼らをアボリジニ村で放っておいても全くへっちゃらだったのだ。これじゃあインチキコーディネーターがますますインチキっぽく聞こえてしまいそうだが、今回は私自身も含めそれぞれがこの旅を通して実に様々な想いを巡らしオーストラリアに住む一日本人として、そしてこの地球上に生きる人間として、砂漠で暮らすアボリジニ達と数日間接することによって学んだ大地と人間との大きなかかわりをより一層強く感じたのではないだろうか。
アボリジニ村滞在中ずっと我々の食事を気遣ってくれた優しいS子ママ。ちょっと気を抜くとみんなの目を盗んですぐ居眠りするおとぼけTOM,そして最年少でも一番クールで物怖じしない、ほんとはあなたが一番パワフルでしたと称えたいA里。素晴らしい旅の実現に心から感謝したい。