アボリジニあれこれ
早いもので私もこの連載を始めてからもうかれこれ2年以上の月日が経つ。こんな飽きっぽい私がなぜこんなに長く続けられているのか・・・疑問でしょう。きっと原稿料をわんさかもらっているに違いないと勝手に想像をしていてくれたまえ。
時折、これまでに書き綴ってきた自分の原稿を私も一応は全部読み直してみることがある。今更あれこれ言っても遅いのだが「ああいった表現をすればよかった。」とか、「ここのこういう書き方はまずかった。」などという大きな反省をして夜も10分ほど眠れないことだってある。
しかし、一番の大きな反省点はこれだ!これなのだ。いつも何かとオチャラケた体験紀行記ばかりを書いていて、実は肝心なオーストラリア先住民・アボリジニに関する適切な情報提供があまりにも少ないということである。これじゃあまるで私がいつもアボリジニ村でイモムシばかり食べているとか、また乳出し踊りばかりをしているとかの誤解をされてしまう恐れがある。はっきり言ってそれもかなり正しいのだが、今月号は新年号ということもあり心新たに「アボリジニあれこれ」について簡単にご説明してみようと試みた。こう見えても私も一応本をたくさん読んだり学者にインタビューしたりとアボリジニ研究をしているんだよーーん。
… と、言っておきながら早速まずひとつお知らせしておきたいことがあるのだが、ご存知の通りこの広大なオーストラリア大陸に住む先住民アボリジニはもともと 500以上もの言語集団に分かれていて、もちろん住む地域によっては生活の仕方も考え方も全く異なる集団なのである。私の専門は中央砂漠のアボリジニ達。したがってここで紹介するのは主に砂漠で暮らすアボリジニ達のことであることをご理解いただきたい。
歴史
オーストラリアの先住民アボリジニは地球がまだ氷河期だったおよそ5万年前、インドネシアとオーストラリアの間にあるトレス海峡を渡った東南アジア系の人々が祖先だったと考えられている。彼らは広範な地域で小さな集団を作って生活し、その長い歴史のほとんどの時代を狩猟や野生植物の採集などで過ごして来た。私もこれまで何度も彼らの狩猟に同行してオシッコちびるような体験をしたが、が、その中でも一番驚いたのが地面の下から水を得るために何時間もひたすら掘りつづけてやっと得た「奇跡の水」が実はアンモニアのにおいだらけで鼻がひん曲がりそうになったこと。だが、その水をみんなが目の前で美味しそうに飲んでいたとき私は心の中で「カンニンしてください。」とお祈りしていた。そんな彼らの狩猟採集生活にも少しずつ変化が現れてきており、これまで使っていたブーメランや槍の代わりに散弾銃を持ち、四輪駆動のトラックで狩猟に出かける姿も今では珍しくないのだ。また、1788年にヨーロッパから白人が入植した事でアボリジニ達の暮らしは大きく変わり、白人による土地の収奪などによって生活の場を失い1930年代には当時30万人以上もいたと言われていたアボリジニが何と5万人まで激減していったのである。
住居
獲物を追って大地を移動する生活を続けてきたアボリジニ達には我々のように家を構えて一箇所に住むといった概念がまるでない。それゆえ彼らの住まいは実にシンプルだ。乾季には木の下で生活。強い日差しと夜露が避けられればそれで十分なのだから。現在はオーストラリア政府がアボリジニ達のために近代的な住居を供給しているが、もともと「住まい」に関する考え方が根本的に違うために、ドアを叩き割って焚き木にしたり、冷蔵庫の中に靴をしまってみたり、部屋の中にさっき殺したばかりの牛の頭がまるで置き物のように置かれてあったのにはさすがの私もたまげた。
食物
狩人の血を受け継ぐアボリジニの人々は草原(ブッシュ)にある食べ物(タッカー)・つまりブッシュタッカーを確実に、それはそれは見事に見つける名人。砂漠で重要な蛋白源になるイモムシの幼虫や貴重な糖分になる蜜アリなんて大変なごちそうなのだ。そんなごちそうを私もいただく機会に恵まれ(とほほ・・・)イモムシを生で口に入れた瞬間には同時にもう泣いていたような気がする。ああ、これでもう誰ともKISSが出来なくなってしまった。イモムシを生で食べるこんなオンナといったい誰がKISSをしたがるものか。口の中でまるで生卵がドロっと流れていくような・・・まさにあんな感じ。「美味しかった?」と面白がって聞いてくる諸君にひとこと。正直言って味なんてよくわかりません。現場では頭の中がちょっと真っ白になっていてとにかく早く飲み込んでしまえと唾液をいっぱい口に溜めたことしか記憶にないのであるから。しかし、これは手のひらでグニョグニョ動く生の物体を口に入れたときの話。ちゃんと焼いてもらえばこれがまた美味。皮はパリパリ・中身はフワフワで結構香ばしくイケちゃうのである。
現在はそんなアボリジニ居住区にも政府が設けたスーパーマーケットが設置されており、彼らはそこでほとんどの食料をまかなっている。ここで、アボリジニの人々の人気食品ベスト3をご紹介してみると1位は砂糖・2位が炭酸飲料・そして3位が小麦粉である。中でも砂糖は一人で一日に120gも使うというのだから驚きだ。そのため糖分の摂りすぎによる肥満や糖尿病・虫歯の発生率が高まっていることは言うまでもない。私も以前アボリジニ村滞在時に3歳児ぐらいの男の子が1.5リットル入りのコカコーラボトルをラッパ飲みしている光景を何度も見たものだ。食生活の改善が彼らの今後の大きな課題である。
結婚
いい歳をして(余計なお世話だ)まだ「結婚」をしていないこの私が、アボリジニの「結婚」について綴るのはちょっとシャクだ。…が、結構興味深いのでちょっとだけご紹介してみよう。まず、相手選びが日本の「いいなずけ」に似ているのである。男性・女性それぞれが8つのスキンネームに分類され、自分のスキンネームによって自動的に結婚相手が決まってしまう。ある部族間では男性は必ず自分の母親の兄弟の娘を妻にするというルールもあり、その相手は子供のときからすでに決まっているという場合があるのだ。
またアボリジニ社会では一夫多妻も認められているが、ただしこの風習は夫に先立たれた女性が夫の弟などと再婚することで老後の保障につながり、一方で男性にとっても働き手が得られるという点でお互いに利点があるためだとも考えられるが…うーーん、正直言って私には複雑すぎてこのスキンネームシステムがよくわからない。だが、明確なのはこのアボリジニ社会で私も暮らせばすぐにでも嫁入りが出来そうな気がしてならないということだ。日本に住む両親にアボリジニ村への嫁入りについてちょっと相談してみようと思う。
…ということで新年号にぴったし!である「アボリジニあれこれ」はご要望があればもっと詳しく喜んでお話しますのでいつでもご遠慮なくご一報くださいませ。([email protected])